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兼好法師「徒然草」(続き)

たびたび登場するのが寺や僧侶の話題である。兼好が得度したのは比叡山横川とされているが、御室に住んだことから仁和寺についての記事が多く、鎌倉ゆかりの真言律宗や浄土宗についても何段か書かれている。

教科書によく載っている「先達はあらまほしきものなり」は仁和寺の法師の話だが、どうみてもあまり誉めていない。仁和寺は兼好法師のご近所ではあるものの真言宗御室派で、比叡山延暦寺とは関係が遠く、そういったこともあるのかもしれない。

西大寺(真言律宗)の高僧が宮中に参内した時、「年寄りなだけだ」と参議の日野資朝が言い放ち、「歳取っているのが尊ければ、これはどうです」と毛が抜けた老犬を連れてきたなんて話もある。資朝は後醍醐天皇のお気に入りで、建武以前の討幕計画に連座して処刑された。太平記では亡霊となって登場する。

たいへん興味深かったのは、法然の弟子の宗源が東二条院(後深草天皇中宮)に「死者の供養には何がいいでしょうか」と尋られれて、「光明真言、宝篋印陀羅尼がよろしいでしょう」と答える段である。

あとから弟子達に、「何で念仏って言わないんですか」と問われて、「そう言いたいのは山々だが、経文のどこに根拠があるか尋ねられたら困る。だから根拠が明らかな光明真言と宝篋印陀羅尼と答えたのだ」と答えるのだが、実はこの「念仏が経本のどこに書いてあるか」というのは、信長の「安土宗論」にも出てくる質問なのだ。

光明真言はお遍路をする際に札所で必ず唱えるものだし、宝篋印陀羅尼は房総の宝篋印塔山、茨城の宝篋山など、最近おなじみである。こうしてみると、鎌倉時代がついこの間のように思えてくるから不思議である。

兼好が酒好きだったことも徒然草のいたるところに現れている。「人に無理に酒を勧めるというのは、何を考えているのか全く分からない」とか「すぐに言い争いになり、次の日は具合が悪くなる」とか言うから酒嫌いなのかと思ったら、その舌の根も乾かないうちに「気の合う友と呑みながらしみじみ語り合うのはいい」などというのである。

そして、例によって鎌倉の話。北条時頼が夜分若い武士を呼び出した。あわてて行ってみると酒と盃を用意していて、「一人で酒を呑むのも寂しいので呼んだのだ。みんな寝てしまったので、何か酒のアテを探してきてくれ」と言われる。若い武士が台所で味噌を見つけて持ってくると「これで十分」と気持ちよく呑んだなどという話は、酒好きでないと書けない話である。

さて、徒然草に書かれている人生訓の多くは、兼好が仕えていた堀川(本姓は藤原)具親が後醍醐天皇の怒りにふれて官位剥奪のうえ謹慎を余儀なくされた時代の、いわゆるカウンセリングノートではないかと言われている。

お怒りに触れてというのは、後醍醐天皇お気に入りの女官を口説いて連れ去ってしまったというもので、その女官というのが「神皇正統記」北畠親房の妹であったというのだから、狭い世界の中の出来事である。後醍醐天皇の女好きは有名だから、それほど悪いことだったか疑問ではあるが、ともかく公文書に「女で事件を起こし官位剥奪」と書いてあるそうだ。

だから、徒然草の中に、「妻は持たない方がいい」「女はつまらないものだ」「たまに会うくらいがちょうどいい」と書かれているのは、そういうご主人様に向けてのカウンセリングという側面があると考えられる。「高僧の説教を聞きに行ったら、香の匂いをぷんぷんさせた女がしなだれかかってきたので、途中で退出した」なんて話もある。

年金生活者にとって、心すべき言葉が第123段に書かれている。衣食住に、医薬を加えて4つ。これらがささやかなりとも充たされていれば、それ以上を求めるはぜいたくである、というのである。

いまから千年前に書かれているのだが、これは今日にも通じる言葉である。中国の故事に、「健康で住む場所があり、今日明日食べるものがあればそれ以上求めるべきではない」というけれども、心身の不調を癒す医薬も、クオリティ・オブ・ライフを維持するのに不可欠である。

リタイア生活を送ってはいても、時には歯も痛くなれば頭が痛い日もある。そうした痛みを取り除くことは、衣食住に加えて大切である。酒やいろいろな楽しみはなくても何とかなるし、地位や財産はあるだけストレスのもとだと兼好法師もおっしゃっている。そのとおりである。

p.s. 1970~80年代少女コミックス等、書評いろいろあります。バックナンバーはこちら

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3年前にリタイア、気ままなリタイア生活を送っています。
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