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最後の箕作りがいた常願寺沢を登る 宝篋山(前編)

筑波山の近くに気になっている場所があった。宝篋山である。この山の麓には、箕作り集落があったという。伝説ではなく昭和30年代まで実際にあり、平成に入っても最後の箕作りと呼ばれる人物が暮らしていたという。

家から圏央道・常磐道経由で宝篋山小田休憩所に着いたのは午前9時、驚いたことに100台くらいは停まれる駐車場がほとんど空いていなかった。いい天気で風もなく絶好の行楽日和とはいえ、平日の朝である。

空いている隙間に何とか停め、身支度する。すぐ横の休憩所にはすでにスタッフが詰めていた。トイレをお借りして出発。登山道は駐車場の奥へと続いている。

「箕」とは大きなちりとり型をした農具で、藤や桜、竹などを材料とした。米粒ともみ殻を分けるのに使われ、農業機械が普及するまで米作農家に必須の農具であった。製作・修理には技術が必要で、農家の副業ではなく専業で行う人達がいた。「箕作り」「箕直し」と呼ばれる。

箕作りは決まった土地を持たず、季節ごとに仕事に適した場所に小屋掛けして移動生活を送った。柳田国男は論文「イタカおよびサンカについて」で、箕直しはサンカの一形態であると指摘した。彼らに注目したのが戦前の人気作家・三角寛で、三角の「サンカ小説」は一世を風靡したのである。

宝篋山麓の常願寺に箕作り集落があったことは、筒井功氏の著作や雑誌「マージナル」の特集記事で触れられている。

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筑波山に連なる山系の南端に近い山中に、常願寺という通称の土地がある。
どんな地図にも常願寺の地名は載っていないようだ。国土地理院の地形図にはもちろん、手元の住宅地図のコピーにも家は書き込んであるものの、地名は記していない。(筒井功「漂泊の民サンカを追って」)
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この常願寺が、宝篋山の登山ルートなのである。つくば市制作のガイドマップにも「常願寺ルート」と載っているくらいなので、地元だけの通称という訳ではなさそうだ。一説には、南北朝時代までその名を持つ寺院があった土地だという。峰続きの尖浅間山(とがりせんげんやま)から流れる沢も常願寺沢という。

明治時代から昭和三十年代まで多い時には七軒の家があり、年間三千枚を超す箕が作られていたという。箕一枚米一俵というから、現代の価値にして年商五千万円近いことになる。かなりの規模である。

しかし、現代では機械にとって代わられたため、筒井氏の言によれば「再び無人の地に戻りつつある」。その痕跡が遺されていないものだろうか。

いまの1/25000図には載っていないが、古い地図には登山ルートに沿って人家のマークがいくつかみられる。2019年現在、1軒だけ残っているのが、「最後の箕作り」が住んでいたという家かと思われる。

「最後の箕作り」については、30年前に作られていた雑誌「マージナル」8号から10号に取材記事が載っている。大正生まれで当時すでに68歳、いまご存命であれば90歳をとうに超えている。

当時からこの地は集落から離れた山林で、電気は通じていたが水道はなかったという。建物にはそう傷みはないが、チェーンが引かれ入れないようになっている。小田休憩所から30分かからなかったから歩いて来ることは可能だが、食糧や燃料を上げるのに何らかの輸送手段は必須だろう。でも、車もオートバイもないようだった。

そして、昭和半ばまでこのあたりに六、七軒の小集落があったのだという。登山道の両脇は藪で埋まっていてその名残りは見られないが、よく見ると地盤が平らに整った場所があり、奥に進む踏み跡もある。

何よりも、横を流れる常願寺沢からとだえることなく水音が聞こえて来るので、水の心配はなさそうである。筒井氏の本に載っていた蟹沢とか仏沢といった箕作りが住んだという小集落と雰囲気がとてもよく似ている。こんな場所で住めるのかといまなら思うけれども、私の子供の頃までこういう場所は珍しくもなかった。

(この項続く)

p.s. 「中高年の山歩き」バックナンバーはこちら


アンテナ塔が見えるのが宝篋山頂上。平日朝9時にもかかわらず、駐車場は一杯でした。


のどかな田園地帯を尖浅間山(とがりせんげんやま、中央左)を目指す。その前に見える谷が常願寺沢で、このコースを常願寺コースと呼ぶ。


常願寺コースを少し登ったあたり、100年近く前に箕作りの小集落があったという。現在では藪になってしまい、比較的最近まで暮らしていた一軒しか残っていない。

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taipa

Author:taipa
3年前にリタイア、気ままなリタイア生活を送っています。
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