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福井勝義「焼畑のむら 昭和45年四国山村の記録」

この本は、当時すでに奥深い山村で最後の焼畑集落と呼ばれた椿山(つばやま)を舞台とした調査報告と関連論文をまとめたものである。初版は1973年と45年前であるが、最近になって(2018年)復刊された。

椿山は、四国遍路で歩いた岩屋寺からさらに奥に進んで県境を越え、国道から数km奥に入った標高500mを超える高地にある。調査当時でも30戸ほどの小規模な集落だったが、平成26年に定住しているのはわずか1戸、家の維持管理に通う人もおり、郷土芸能は続けられているということだが、WEBの秘境サイトにも出ているくらい人里離れた土地になってしまった。

著者は当時、京都大学農学部に在籍、学部横断的な調査グループを立ち上げて調査した。専門分野である農業技術的な「焼畑」がもともとの関心分野だったと思われるが、徐々に文化人類学、民俗学の分野に重点が移ったようで、国立民族学博物館、京都大学総合人間学部の教授を歴任した。2008年、まだ64歳の時に亡くなっている。

この本を読んでいて引き込まれるのは、焼畑の技術的な側面、手順や農作物といった分析よりも、山村における人々の暮らしぶりや親戚・近所付き合いなどの記事である。特に、調査当時行われていた村長選挙に対する村人の熱の入れようはすさまじく、元村長・対立候補の人柄やそれぞれの支持者の構成などが細かく記録されている。

こうした著者の関心の深さは、学生運動という側面もあったかもしれない。当時、多くの大学で授業ができない状態になり、東大などは入学試験を行えなかったくらいである。そうした中、山村のフィールドワークに努力した著者は学生運動自体には消極的・批判的だったようだが、政治への関心は強かったに違いない。

「むらを生きる」という章では、この地で長年生きてきた人々の話が語られるが、まるで宮本常一の書いたものを読むようである。1970年当時の年寄りだから明治半ば以降の生まれであるにもかかわらず、病気やケガがもとで多くの人々が寝込んだり死んだりした経緯が細かく語られる。

「医者がいないから拝み屋に拝んでもらった」などという話は江戸時代かフィクション(翔んで埼玉w)と思っていたら、昭和になってもまだ実際にあったのである。そういう話を聞くと、全国どこにいっても衛生的な環境が保たれていて、医師の質もほとんど一律であるという現代は、得難いものであることがよく分かる。

栄養状態も悪くて、椿山では鶏もいないし魚も伊予から入る干物くらい、そもそも焼畑なので米がとれないという状況であったから、病人にも滋養のあるものを食べさせられなかった。とはいえ、現金収入は周辺の村よりあって、その大きなものは焼畑でできるミツマタであった。

ミツマタは和紙の原料となり、コウゾよりも高く売れたようである。とはいえ、現金収入があるのはいいことばかりではない。酒やバクチで浪費してしまう人や、事業に失敗して借金をする人も出てきた。おカネがなかった時にはそんなことはなかったのに、皮肉なものである。

そして山村の暮らしは、傍で考えるより大変だということもよく分かる。「新日本風土記」などを見ていると、昔ながらの農山村の生活は穏やかでこれからも続いてほしいと思うのだが、中にいる人にとってはそうとは限らない。何代も前からどういう家か知られていて、普段の生活も親戚近所が見ているとなると、相当息苦しいことは間違いない。

実際に、学校や生活の不便さがもとで多くの人が麓に移転してしまった現代だけではなく、昔から集落から抜けて別の新しい場所に越す人は珍しくなかったようだ。そういう場合はまさに「掘立小屋」から始めることになるのだが、それでも住み続けるよりましということだったのだろう。

四国の昔からの言葉なのか、いまでは漢字で書かれる言葉がカタカナで書かれている。サエンバ(菜園場)もそうだし、共同作業の後に行われる打ち上げのケチガンもそうである。四国遍路の結願である。遍路用語が先だったのか、当地の民間語彙である「ケチガン」が先なのか、興味深い。

p.s. 1970~80年代少女コミックス等、書評いろいろあります。バックナンバーはこちら


1973年に刊行された作品だが、昨年(2018年)復刊された。当時の貴重な写真も載せられている。

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taipa

Author:taipa
3年前にリタイア、気ままなリタイア生活を送っています。
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