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「一人では何もできない」は上前をはねる常套句 ~年金生活雑感4

「組織」なんてものは、社会一般に要請される規範よりも、組織内のローカルルールを優先させる圧力が働くもので、結局のところ自分の頭で考えないことを要求するということを前回書いた。ここでまた思い出したことがある。

もう30年以上前のことになる。当時勤めていた会社に、直属の上司ではないものの何年か先輩にあたる人がいて、その人が電通「鬼十則」のコピーを後輩達に配り、これこそ社会人としてあるべき姿だと説教したことがある。

まさか30年後に電通が大問題を起こし、「鬼十則」を自ら否定しなければならなくなるとは夢にも思わなかっただろう。平成20年代まで待つこともなく、あんなものはアナクロで体育会的で、頭の中味を疑われるなんてことは、瞬間的に分かる代物である。

(軍隊からの系譜を持つ組織の多くは、ああいう体質を持っている。村上春樹の「羊」で、羊の入った右翼青年が隠匿した資産で保守党の派閥と広告業界を買い取ったというストーリーは、そのあたりの比喩と思われる。)

それにしても、自分の会社が電通でないにもかかわらず、そんなことを正気で考えていたとしたら、先見性とか規範精神とか以前に頭が悪いとしか言いようがないのであるが、当時はさすがにそんなことは言えなかった。

「人間は一人では何もできない」というのは、そうした人達が好んで口にする言葉である。言われた当座はなるほどそうだと思わせる言葉だが、よく考えるとこれは呪いの言葉である。組織に属さない人間は生き延びられないと言っているのと同じだからである。

よく考えてみれば分かることだが、「一人でできることには限りがある」のは確かだけれど、「何もできない」ことにはならない(よく考えなくてもそうだが)。

何人かで分業すれば1人でするよりも多くの成果が得られることは、何百年も前にアダム・スミスはじめ古典経済学が明らかにしている。でもそれは、協力した方が経済的にみて有利というだけのことだ。

当然、経済的側面だけでなく他の得失を勘案した上で判断しなければならない。貿易をした方が経済的にみて有利だとしても、鎖国で自給自足するのが絶対に悪いと主張することは誰にもできない。

比較優位理論の示すところ、例えば120のアウトプットが可能な人(仕事ができる人)と60の人(半人前の人)がいた場合、分業することによって2人で200のアウトプットが可能となるケースは珍しくない。

例えば、仕事ができる人が工程Aに60%、工程Bに40%の時間をかけていて、半人前の人が工程Aに70%、工程Bに30%だった場合、仕事ができる人が工程A、半人前が工程Bに特化して分業すれば、アウトプットは200になり一人ずつで作業した場合よりも生産力が増える。

(実は、どちらの工程も「仕事ができる人」の方が効率はいいのだが、「半人前」がどちらかというと工程Bを得意としているため、そちらに特化させることが有効なのである。これを比較優位という。

ここは読み飛ばしていただいていいのだが、分かりやすく1日の労働時間を10時間とする。仕事ができる人は工程Aを6時間だから1時間当たり20、工程Bを4時間だから1時間当たり30のアウトプットである。一方で半人前の人は、行程Aを7時間だから1時間当たり8.6、工程Bを3時間だから1時間当たり20となる。

どちらの工程をみても仕事ができる人の方が能率はいいのだが、分業するとあら不思議。仕事ができる人は工程Aに特化して10時間で200のアウトプット、工程Bは半人前が担当して200のアウトプットを処理できる。)


この二人が分業=協力することによって増えたアウトプット20は、おそらくその大部分を「仕事ができる人」が独り占めすることになる。何と言うかも見当がつく。「代わりはいくらでもいるよ」「一人じゃ何もできないよ」である。

半人前であっても「一人で何もできない」訳ではない。少ないとはいえ60のアウトプットはあるし、その範囲内で生きていけるように工夫すればいいだけだ。にもかかわらずどうしてそんなことを言われるのか。はっきり言えば、体裁よく上前をはねるためである。

みんなで協力することは悪いことではないし、一人でできることに限りがあるのも確かである。とはいえ、ここでその言葉は、分業することによって得られたアウトプットの増加分を、「半人前」に渡さずに独り占めするために使われる。言葉の魔術というよりも「呪い」に近い。

何十年もサラリーマン生活を送ってきて、結局のところ上前をはねる立場にはなれなかったけれど、考えようによってはこれは幸いなことであった。「鬼十則」やら「一人じゃ何もできない」などと説教しなくて済んだのは、それだけ後悔を少なくできたと思っている。

p.s. 年金生活のバックナンバーはこちら

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taipa

Author:taipa
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