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札所唯一の毘沙門天ご本尊と狛象 六十三番吉祥寺(前編)

この日三つ目の札所となる吉祥寺(きちじょうじ)に向かう。、「遍路地図」には「きっしょうじ」と表記されているが、霊場会HPの表記も山門前の振り仮名も「きちじょうじ」である。われわれ首都圏の人間からすると、三鷹の先の吉祥寺と同音の方がなじみ深いが、タクシーの運転手さんも「きっしょうじ」と言っていたから、何か由来があるのかもしれない。

香園寺、一ノ宮と同じく小松の市街地にある。次の六十四番前神寺も3kmほどしか離れていない。半径3km以内に札所が4つも集中するというのは、県庁所在地を除くと観音寺とここ小松くらい。小松の場合は、聖地石鎚山と関係が深いからであろう。

一ノ宮から吉祥寺まで国道11号線を歩く。片側一車線の両側に狭い歩道があり、古い商店街が続いている。いくつかの店は閉店しているようだ。壬生川駅近くは県道なのに片側2車線で歩道も広く、大きなロードサイド店が続いていたのとは対照的である。

小松は江戸時代に小松藩が置かれていたが、1万石の小藩だったため城はなく、陣屋で政務が行われていた。一方で川を隔てた壬生川は十五万石・松山藩で、港湾が発達し物資の集積・中継点として栄えた。そうした背景から、経済力の違いが今日まで影響しているのかもしれない。

暗かった空から、とうとう雨が降り出した。ぽつぽつという小雨だったので、折り畳み傘は温存しモンベルのフィールドアンブレロにビニルカバーを付けて傘の代わりにする。

このモンベル社の新兵器は今回新調した笠タイプの帽子で、折りたためてかさばらない上に天然素材で見た目は遍路笠のようでである。例によって「いっぽ一歩堂」で購入したのだが、少々の雨ならこれだけで足りるし、強い日差しを遮ることができる。なかなかの優れものである。

五来重氏の考察によると、横峰から前神に至る札所はいずれも石鎚山への経路にあたり、石鎚山をご神体と崇める修験者達の修業の場だったという。なるほど、いまであればロープウェイで成就社に登るか石鎚スカイラインで土小屋に行くのがスタンダードだが、足だけが頼りならこのあたりから登る以外に方法はない。

吉祥寺も、「昔は今の地より東南にあたり十五町許をさりて山中にあり」と霊場記に書かれているように、石鎚ロープウェイに至る途中にあった。多くの堂宇を有する大寺院だったとされるが、毛利と長宗我部の戦いで火を掛けられ全山焼亡した。江戸時代初めの霊場記挿絵では、本堂と大師堂しか描かれていない。今日でもほぼ同じである。

密教山吉祥寺(みっきょうさん・きちじょうじ)。吉祥寺という寺号ではあるが、吉祥天は脇侍であり、本尊は毘沙門天。弘法大師御製と伝えられるが、天部のご本尊というのはたいへん珍しく、八十八ヶ所ではここしかない。

毘沙門天を重視するのは修験道である。だから境内に毘沙門天をお祀りしているお寺は少なくないが、ご本尊となるとまた別格である。石鎚修験の色合いが色濃く残った霊場といえるだろう。

国道沿いの入口は通用口でトラロープが張ってあり、「正門からお入りください」と書いてある。細い路地を用水路沿いに20mほど入ると山門である。新しい表札には寺号とともに、「本尊 四国唯一体毘沙門天王」と書かれている。

変わっていたのは、石灯籠は分かるのだが、灯籠とともにそれほど古いものではないが左右一対の象が置かれていたことである。狛犬ならぬ狛象である。徳島の鶴林寺に狛鶴がいたけれども、狛象は初めて見た。寺に置かれているのはたいへん珍しい。

象といえば聖天である。調べたところ、聖天の守護神が毘沙門天ということである。この後、石鎚山前衛の山々を回る途中で、象とか歓喜天(聖天)の絵をいくつか見た。あるいは石鎚信仰と聖天には関係があるのかもしれない。

本堂は間口が広く、たいへん立派である。戸が閉ざされていて、ご本尊の毘沙門天像を見ることはできなかった。大師堂は本堂のはす向かい、やや小ぶりで、国道沿いの通用門近くにある。

(この項続く)

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吉祥寺は八十八ヶ所で唯一毘沙門天をご本尊とする。門前には象がお出迎え。


吉祥寺本堂。境内はそれほど広くないが、間口が広くたいへん立派な本堂である。


本堂よりやや小ぶりな大師堂。右に見える屋根は本堂で、回廊でつながっている。この左に通用門があり、背後は国道11号線。

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