第81期順位戦終了 藤井竜王、名人挑戦
- 2023/03/15
- 08:50
今期の順位戦は藤井竜王がA級に昇級し、名人まで突っ走るかどうか注目されたが、そう簡単に問屋は卸さなかった。
序盤で菅井八段に一敗、第8局で永瀬王座に二敗目を喫し、3月2日の一斉対局で稲葉八段に勝って7勝2敗としたものの、同じく7勝2敗の広瀬八段とのプレーオフとなった。
プレーオフは最終戦から6日後の3月8日。藤井竜王は王将戦、棋王戦のダブルタイトル戦に加え、朝日杯、NHK杯そして順位戦と2月下旬からのスケジュールが半端なくきつい。週末の棋王戦でも、1分将棋で即詰みを逃すという負け方だった。
このプレーオフも準備期間がほとんどなく影響が心配されたが、幸い振り駒で先手を引き、戦い慣れた角換わりに誘導できた。広瀬八段も奇策を用いず堂々と受けて立ち、攻め合いでお互いの玉に肉薄する激戦を制して藤井竜王が挑戦権を獲得した。
3月末にかけて王将戦・棋王戦の終盤で、4月5日から早速名人戦七番勝負が始まる。渡辺名人とは棋王戦からの十二番勝負となり、もし両タイトル奪取なれば羽生七冠以来の七冠制覇となる。ただし、叡王戦とのダブルタイトル戦でスケジュールは楽にならない。
降級は最終局前に確定していて、佐藤会長九段と糸谷八段。会長の降級によりA級棋士のすべてが20代と30代、渡辺名人も39歳なのですべて30代以下ということになった。これはA級はじまって以来だそうである。
かつてのように、長年の経験とかインサイドワークが勝敗を左右するのではなく、AIを活用した事前研究と最新知識が勝利に直結する時代である。40代以上の棋士が復権するのは、かなり難しそうである。
B級1組は昇級者が最終戦まで決まらない激戦となったが、佐々木勇気、中村太地の両若手が初A級・八段昇段を手にした。
佐々木勇気七段は昨年も昇級戦線で健闘したが、惜しくも5位にとどまった。今年はこの順位が効いて最終戦で自力昇級可能であったが、屋敷九段との激戦を制し9勝3敗で昇級・昇段を決めた。
2010年四段の28歳と相当出世が早いが、藤井竜王がいるので目立たないのは気の毒である。その藤井がプロ入り初黒星を喫したのが佐々木勇気であった。今期NHK杯でも決勝に進出し、対藤井竜王戦である。
中村太地はご存じ元王座。その王座タイトルを獲った羽生九段相手の最終戦を落としたが、澤田七段の黒星で昇級・昇段を果たした。ただ、9勝3敗は例年であれば楽勝で昇級できる星で、今年はレベルが高かった。米長門下では先崎九段以来久々のA級棋士となる。
降級は郷田、丸山が決まっていたが、最終局で久保九段が敗れ降級となった。3者とも元タイトル保持者で九段の大ベテランであるが、残念ながら今期は星が伸びなかった。B級2組が、B1に代わって新たな鬼の住処となりつつあるようだ。
B級2組からB1への昇級者は2月中に3名とも確定した。増田六段、大橋六段と木村九段である。増田、大橋は昇級・昇段となった。
増田新七段は藤井竜王が四段になるまでの最年少棋士だし、大橋新七段は藤井と同期の四段昇段。ともに、将来を嘱望される新鋭である。大橋はこれでC1からB1まで3年連続昇級。強豪ぞろいのB1で、両者ともどのように戦うか注目である。
木村九段は最終局の相手だった中田八段の死去により8勝2敗が確定し、順位1位が効いて1期でのB1復帰となった。昇級した2名だけでなく若手の進出が著しいB1だが、磨き上げられた実力に衰えのないことを示してほしいものである。
C級1組は最終局まで昇級者が決まらないハイレベルの激戦となった。自力昇級のかかっていた石井六段、青嶋六段がそれぞれ勝ってB2昇級を決めたが、9連勝の伊藤匠五段が敗れ、4・5番手の直接対決となった対都成戦を制した渡辺和史五段の連続昇級となった。
石井健太郎六段は2014年デビュー。C2は5期、C1を4期で勝ち上がった。C2でもC1でも7勝~8勝をあげて、惜しいところで昇級を逃すケースが多かった。今年は3位と高順位で、第7局で黒田五段、第8局で出口六段というライバルを下した星が大きかった。
青嶋六段は2015年四段昇段。C2を1期で通過したものの、C1通過に6年を要した。毎年勝ち星が先行するものの、強力な昇級候補が全勝に近い成績をとるので遅れをとっていた。前期からの昇級枠増がプラスに働いた。
渡辺和史五段は昨年のC2でも9勝1敗で伊藤五段と相星だったが、今年も同じ9勝1敗、順位の差で昇級・六段昇段となった。2019年四段で、毎年のように勝数・勝率ランキング上位に顔を出している。特に順位戦の相性がいいようで、最近は昇級・昇段となるケースはそれほど多くはない。
伊藤匠五段は最終戦を落とし、惜しいところで連続昇級を逸した。とはいえ、C1頭ハネは藤井竜王でさえ喫したくらいで、悲観するに及ばない。王位戦リーグ入りや棋王戦ベスト4など他棋戦でも勝ちまくっており、来期は順位もよく昇級候補筆頭だろう。
C級2組は、昨年惜しいチャンスを逃した服部五段と、いつも昇段候補の斎藤明日斗五段が序盤から突っ走り、第8局まで8連勝で2月までに昇級を確定した。残り1枠は昇級候補が2月に揃って敗れ混とんとしたが、古賀悠聖四段が最終戦に勝って9勝1敗で逃げ切り、順位戦初年度で昇級昇段を果たした。
服部五段、斎藤明日斗五段は他棋戦でも活躍し対局数・勝ち数ランキングでも例年上位に顔を見せる存在で多言を要さないが、古賀新五段は2020年フリークラスで四段デビュー。
三段リーグ次点2回や編入試験でフリークラスのプロ入りとなった棋士は何人かいるが、順位戦C1に昇級したのは古賀新五段が初である(花村元司九段を除く)。佐々木大地七段が何度も惜しいところで昇級を逃している間に先を越したことになる。
もっとも、古賀新五段が四段昇段を決めたのは19歳だから、権利を行使しなくてもいずれ昇段したものとみられる(佐藤天彦九段も次点2回だが行使しなかった)。ランキング上位にも顔をみせているので、当然さらに上をめざすことになるだろう。
p.s. 将棋記事のバックナンバーはこちら。軽量化工事直後なので、不具合あればご容赦ください。

第71期A級順位戦プレーオフ。先手となった藤井竜王が角換わりに誘導、お互いの玉に肉薄する攻め合いとなったが、この局面で7四金を馬で取ると後手玉が詰んでしまう。競り合いを制して藤井竜王がA級1期目で名人挑戦となった。
序盤で菅井八段に一敗、第8局で永瀬王座に二敗目を喫し、3月2日の一斉対局で稲葉八段に勝って7勝2敗としたものの、同じく7勝2敗の広瀬八段とのプレーオフとなった。
プレーオフは最終戦から6日後の3月8日。藤井竜王は王将戦、棋王戦のダブルタイトル戦に加え、朝日杯、NHK杯そして順位戦と2月下旬からのスケジュールが半端なくきつい。週末の棋王戦でも、1分将棋で即詰みを逃すという負け方だった。
このプレーオフも準備期間がほとんどなく影響が心配されたが、幸い振り駒で先手を引き、戦い慣れた角換わりに誘導できた。広瀬八段も奇策を用いず堂々と受けて立ち、攻め合いでお互いの玉に肉薄する激戦を制して藤井竜王が挑戦権を獲得した。
3月末にかけて王将戦・棋王戦の終盤で、4月5日から早速名人戦七番勝負が始まる。渡辺名人とは棋王戦からの十二番勝負となり、もし両タイトル奪取なれば羽生七冠以来の七冠制覇となる。ただし、叡王戦とのダブルタイトル戦でスケジュールは楽にならない。
降級は最終局前に確定していて、佐藤会長九段と糸谷八段。会長の降級によりA級棋士のすべてが20代と30代、渡辺名人も39歳なのですべて30代以下ということになった。これはA級はじまって以来だそうである。
かつてのように、長年の経験とかインサイドワークが勝敗を左右するのではなく、AIを活用した事前研究と最新知識が勝利に直結する時代である。40代以上の棋士が復権するのは、かなり難しそうである。
B級1組は昇級者が最終戦まで決まらない激戦となったが、佐々木勇気、中村太地の両若手が初A級・八段昇段を手にした。
佐々木勇気七段は昨年も昇級戦線で健闘したが、惜しくも5位にとどまった。今年はこの順位が効いて最終戦で自力昇級可能であったが、屋敷九段との激戦を制し9勝3敗で昇級・昇段を決めた。
2010年四段の28歳と相当出世が早いが、藤井竜王がいるので目立たないのは気の毒である。その藤井がプロ入り初黒星を喫したのが佐々木勇気であった。今期NHK杯でも決勝に進出し、対藤井竜王戦である。
中村太地はご存じ元王座。その王座タイトルを獲った羽生九段相手の最終戦を落としたが、澤田七段の黒星で昇級・昇段を果たした。ただ、9勝3敗は例年であれば楽勝で昇級できる星で、今年はレベルが高かった。米長門下では先崎九段以来久々のA級棋士となる。
降級は郷田、丸山が決まっていたが、最終局で久保九段が敗れ降級となった。3者とも元タイトル保持者で九段の大ベテランであるが、残念ながら今期は星が伸びなかった。B級2組が、B1に代わって新たな鬼の住処となりつつあるようだ。
B級2組からB1への昇級者は2月中に3名とも確定した。増田六段、大橋六段と木村九段である。増田、大橋は昇級・昇段となった。
増田新七段は藤井竜王が四段になるまでの最年少棋士だし、大橋新七段は藤井と同期の四段昇段。ともに、将来を嘱望される新鋭である。大橋はこれでC1からB1まで3年連続昇級。強豪ぞろいのB1で、両者ともどのように戦うか注目である。
木村九段は最終局の相手だった中田八段の死去により8勝2敗が確定し、順位1位が効いて1期でのB1復帰となった。昇級した2名だけでなく若手の進出が著しいB1だが、磨き上げられた実力に衰えのないことを示してほしいものである。
C級1組は最終局まで昇級者が決まらないハイレベルの激戦となった。自力昇級のかかっていた石井六段、青嶋六段がそれぞれ勝ってB2昇級を決めたが、9連勝の伊藤匠五段が敗れ、4・5番手の直接対決となった対都成戦を制した渡辺和史五段の連続昇級となった。
石井健太郎六段は2014年デビュー。C2は5期、C1を4期で勝ち上がった。C2でもC1でも7勝~8勝をあげて、惜しいところで昇級を逃すケースが多かった。今年は3位と高順位で、第7局で黒田五段、第8局で出口六段というライバルを下した星が大きかった。
青嶋六段は2015年四段昇段。C2を1期で通過したものの、C1通過に6年を要した。毎年勝ち星が先行するものの、強力な昇級候補が全勝に近い成績をとるので遅れをとっていた。前期からの昇級枠増がプラスに働いた。
渡辺和史五段は昨年のC2でも9勝1敗で伊藤五段と相星だったが、今年も同じ9勝1敗、順位の差で昇級・六段昇段となった。2019年四段で、毎年のように勝数・勝率ランキング上位に顔を出している。特に順位戦の相性がいいようで、最近は昇級・昇段となるケースはそれほど多くはない。
伊藤匠五段は最終戦を落とし、惜しいところで連続昇級を逸した。とはいえ、C1頭ハネは藤井竜王でさえ喫したくらいで、悲観するに及ばない。王位戦リーグ入りや棋王戦ベスト4など他棋戦でも勝ちまくっており、来期は順位もよく昇級候補筆頭だろう。
C級2組は、昨年惜しいチャンスを逃した服部五段と、いつも昇段候補の斎藤明日斗五段が序盤から突っ走り、第8局まで8連勝で2月までに昇級を確定した。残り1枠は昇級候補が2月に揃って敗れ混とんとしたが、古賀悠聖四段が最終戦に勝って9勝1敗で逃げ切り、順位戦初年度で昇級昇段を果たした。
服部五段、斎藤明日斗五段は他棋戦でも活躍し対局数・勝ち数ランキングでも例年上位に顔を見せる存在で多言を要さないが、古賀新五段は2020年フリークラスで四段デビュー。
三段リーグ次点2回や編入試験でフリークラスのプロ入りとなった棋士は何人かいるが、順位戦C1に昇級したのは古賀新五段が初である(花村元司九段を除く)。佐々木大地七段が何度も惜しいところで昇級を逃している間に先を越したことになる。
もっとも、古賀新五段が四段昇段を決めたのは19歳だから、権利を行使しなくてもいずれ昇段したものとみられる(佐藤天彦九段も次点2回だが行使しなかった)。ランキング上位にも顔をみせているので、当然さらに上をめざすことになるだろう。
p.s. 将棋記事のバックナンバーはこちら。軽量化工事直後なので、不具合あればご容赦ください。

第71期A級順位戦プレーオフ。先手となった藤井竜王が角換わりに誘導、お互いの玉に肉薄する攻め合いとなったが、この局面で7四金を馬で取ると後手玉が詰んでしまう。競り合いを制して藤井竜王がA級1期目で名人挑戦となった。