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鈴木忠平「嫌われた監督」

2020年から21年に週刊文春に連載されたシリーズ。著者はnumber(文芸春秋発行)等に記事を掲載するフリーライターだが、その前は日刊スポーツ(朝日新聞系列)で16年間プロ野球記者をしていた。

個人的には、若い頃だけで長いこと野球は見ていない。プロ野球だけでなく、高校野球も大学野球も見ない。私の年代だと2つ上に江川がいて1つ下に原がいて、野球を見ないという人間はあまりいない。

だから、落合の現役時代はともかく、監督になってからのことはよく知らない。だから、話題になっているこの本を読んでも、あまり内容は分からないかもしれないと心配していた。

ところが実際に読んでみると、木村政彦の本以来、久しぶりに読んだノンフィクションの傑作であった。この本は野球の技術論でも戦術論でもなく、実は日本企業の組織論なのである。

落合が監督になるにあたって重んじたのは、ファンサービスでもなければ球団の将来でもなく、契約書に書かれたことを着実に実行することだった。それ以外のことは自分の職分ではない。親分子分もなければ貸し借りもない。

「好き嫌いで野球やったら、損するよ」というのは著者が登場人物の一人に言わせていることだが、それは落合自身がおそらく考えていることだし、著者がそう受け取っていることである。しかし日本の組織は、その当り前のことができないのだ。

落合は監督在任中の9年間、一度もAクラス(3位以内)から落ちていない。そして4度のセリーグ優勝、日本シリーズ5回登場、日本シリーズ優勝1回である。落合解任後は11年でAクラス2回、リーグ優勝も日本シリーズもない。

これは、落合は星野時代の遺産である選手たちで戦っていたからとよく言われるが、9年間もベテラン選手だけで優勝を争えるはずがない。ここまで結果が違うのは、他の監督と何かが違うからだ。

読んでいて、落合がNFLの監督だったら、選手より上の年俸でも、ゲームがつまらないと言われても、何の問題もなかっただろうと思う。実際にそうやって、ベリチックもマイク・トムリンも長期政権を築いている。

そして、それだけの実績をあげている監督を契約満了で事実上解任したのも、日本の組織にありがちな派閥争いであった。中日新聞社内の派閥争いの場外戦が、落合続投を認めるかどうかに波及したのである。その時点で2年連続日本シリーズを争っているのに。

観客が不入りなのは監督のファンサービスがよくないからだというのはとってつけた理由で、おそらく、トップのご機嫌をとらない落合が嫌われただけなのだ。

そして、優勝争いを左右するとみられた巨人戦を敗れて、アンチ落合の球団オーナーはガッツポーズをとったと伝えられた。これを聞いた選手が奮起、翌日から9割近い勝率をあげて逆転優勝を果たすのである。

長くなったので続きは明日。

p.s. 1970年代少女コミックス、その他の書評バックナンバーはこちら

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木村政彦以来、久しぶりに読んだノンフィクションの傑作。落合論というよりも日本の組織論で、これだけの文章が書ける記者が末席に甘んじなければならなかった某新聞社にも、将来はないということでしょう。

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7年前にリタイア、気ままな年金生活を送っています。

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