佐藤天彦マスク外して反則負けの波紋
- 2022/11/02
- 05:15
先月のA級順位戦で、元名人の佐藤天彦九段が長時間マスクをかけずに対局して規定により反則負けとなった。
本人は「注意を受けていないのに一発失格はひどい」と言っているそうだし、もしかすると常務会に提訴ということになるかもしれないが、規定で反則負けとしている以上そうするしかないし、いまの時代だから映像で確認がとれてそうしたのだろう。
世間一般では、マスクがそんなに必要かみたいな議論が出ているけれど、将棋の対局と一般生活を一緒にして議論するのは的外れである。
公式戦で最初から持ち時間に差があるとか、一方が評価値を見てもいいとかはありえない。マスクをするのが義務なら、両者そうしなければ有利不利が生じる。どうしても外したいなら、自分の持ち時間で席を離れればいいだけの話だ。
マスクをしないで対局する方が有利なのは間違いないから、ルールを守って不利になるとすればそれは規則としておかしい。ホリエモンがどうこう言っているらしいが、彼に公正さとか遵法精神といっても始まらない。
私だって、スポーツジムでマスクをしろとかマシンをいちいち消毒しろとか言われるのは窮屈だし、マスクをするとメガネが曇るし息苦しい。おそらく将棋もそうだろう。しかし、将棋盤をはさんで至近距離で対局しているのである。
将棋連盟は一昨年コロナのために何ヶ月も対局を組むことができず、大変厳しい状況となった。そうした事態を避けるため作られた規定であり、所属棋士として自分と将棋界を守るために遵守しなくてはならない。まして、A級で元名人の一流棋士である。
スマホを対局場に持ち込めば悪意がなくてもうっかりでも反則負けとなるのと同様、マスクを長時間しなければ反則負けである。一般社会で、スマホがないと不便だし連絡がとれないというのと同じ次元で考えること自体おかしい。
こういう事件が起きると思い出すのは、以前コンサートに行った時、後ろの席でずっと咳をしているのに最後までいた不心得な奴のことである。まだコロナの前だったが、インフルエンザだって咳で伝染るし、だいいち静かなクラシック音楽で他人に迷惑だろう。
だから裁定は当然と思うし、佐藤九段が反論できるとすれば「水を飲む間しか外していない」しかありえない。それとは別に私が思うのは、これが初めてのケースだったのだろうかという点である。
佐藤九段はマイペースで知られるし、今年になってコロナ感染でしばらく休場しているのに、それで神経質にマスクを心がけるという性格でもなさそうだ。そして、仮にマスクを長時間外して対局したとして、彼に注意できる人間がどれだけいるだろうか。
佐藤九段もベテランの九段と指すときはちゃんとマスクをするだろうが、自分より若い棋士と指す場合、これまでもそうだったのではないかという疑問が浮かんでしまう。マスクを外して相手に余計なことを考えさせるのは、インサイドワークととられても仕方がない。
それを指摘できるのは、佐藤九段より歳下でしかも上座に座る永瀬王座以外にはいない。藤井五冠だってずいぶん歳下だから、上座とはいえ遠慮があるだろう。
それと、他の棋士がそれを指摘しづらいのは、「自分も夢中になってマスクを外したままでいるかもしれない」という心配があるからだが、鬼軍曹といわれる永瀬王座だからきっちりルールは守りそうだ。
いずれにしても、規定があってみんながそれを守っている以上、守らずに反則負けを食らうのは仕方ない。騒ぎになっておそらくそれで時間と集中力を殺がれたのだろう。永瀬王座は2日後の王将戦リーグで羽生九段に敗れた。
佐藤九段の次局は11月3日の棋王戦、対藤井五冠である。竜王戦第3局で鮮やかな逆転勝ちを収めた藤井五冠相手に、奮起の巻き返しはなるだろうか。
p.s. 将棋関連記事のバックナンバーはこちら。

10月28日のA級順位戦で、佐藤天彦九段が長時間マスクを外して対局し、反則負けとなった。マスクを付けるのが義務とされている以上、片方がマスクを外していれば五分の条件にならないから仕方ないでしょう。
本人は「注意を受けていないのに一発失格はひどい」と言っているそうだし、もしかすると常務会に提訴ということになるかもしれないが、規定で反則負けとしている以上そうするしかないし、いまの時代だから映像で確認がとれてそうしたのだろう。
世間一般では、マスクがそんなに必要かみたいな議論が出ているけれど、将棋の対局と一般生活を一緒にして議論するのは的外れである。
公式戦で最初から持ち時間に差があるとか、一方が評価値を見てもいいとかはありえない。マスクをするのが義務なら、両者そうしなければ有利不利が生じる。どうしても外したいなら、自分の持ち時間で席を離れればいいだけの話だ。
マスクをしないで対局する方が有利なのは間違いないから、ルールを守って不利になるとすればそれは規則としておかしい。ホリエモンがどうこう言っているらしいが、彼に公正さとか遵法精神といっても始まらない。
私だって、スポーツジムでマスクをしろとかマシンをいちいち消毒しろとか言われるのは窮屈だし、マスクをするとメガネが曇るし息苦しい。おそらく将棋もそうだろう。しかし、将棋盤をはさんで至近距離で対局しているのである。
将棋連盟は一昨年コロナのために何ヶ月も対局を組むことができず、大変厳しい状況となった。そうした事態を避けるため作られた規定であり、所属棋士として自分と将棋界を守るために遵守しなくてはならない。まして、A級で元名人の一流棋士である。
スマホを対局場に持ち込めば悪意がなくてもうっかりでも反則負けとなるのと同様、マスクを長時間しなければ反則負けである。一般社会で、スマホがないと不便だし連絡がとれないというのと同じ次元で考えること自体おかしい。
こういう事件が起きると思い出すのは、以前コンサートに行った時、後ろの席でずっと咳をしているのに最後までいた不心得な奴のことである。まだコロナの前だったが、インフルエンザだって咳で伝染るし、だいいち静かなクラシック音楽で他人に迷惑だろう。
だから裁定は当然と思うし、佐藤九段が反論できるとすれば「水を飲む間しか外していない」しかありえない。それとは別に私が思うのは、これが初めてのケースだったのだろうかという点である。
佐藤九段はマイペースで知られるし、今年になってコロナ感染でしばらく休場しているのに、それで神経質にマスクを心がけるという性格でもなさそうだ。そして、仮にマスクを長時間外して対局したとして、彼に注意できる人間がどれだけいるだろうか。
佐藤九段もベテランの九段と指すときはちゃんとマスクをするだろうが、自分より若い棋士と指す場合、これまでもそうだったのではないかという疑問が浮かんでしまう。マスクを外して相手に余計なことを考えさせるのは、インサイドワークととられても仕方がない。
それを指摘できるのは、佐藤九段より歳下でしかも上座に座る永瀬王座以外にはいない。藤井五冠だってずいぶん歳下だから、上座とはいえ遠慮があるだろう。
それと、他の棋士がそれを指摘しづらいのは、「自分も夢中になってマスクを外したままでいるかもしれない」という心配があるからだが、鬼軍曹といわれる永瀬王座だからきっちりルールは守りそうだ。
いずれにしても、規定があってみんながそれを守っている以上、守らずに反則負けを食らうのは仕方ない。騒ぎになっておそらくそれで時間と集中力を殺がれたのだろう。永瀬王座は2日後の王将戦リーグで羽生九段に敗れた。
佐藤九段の次局は11月3日の棋王戦、対藤井五冠である。竜王戦第3局で鮮やかな逆転勝ちを収めた藤井五冠相手に、奮起の巻き返しはなるだろうか。
p.s. 将棋関連記事のバックナンバーはこちら。

10月28日のA級順位戦で、佐藤天彦九段が長時間マスクを外して対局し、反則負けとなった。マスクを付けるのが義務とされている以上、片方がマスクを外していれば五分の条件にならないから仕方ないでしょう。