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尚順「古酒の話」

先日「細雪」を読んだ後味があまりよくなかったのと、書かれた時期がほぼ同じということもあって、この小作品を読み返したくなった。

尚順は名前から明らかなように琉球王家の末裔である。旧華族制度では男爵に列せられるが、この人の場合男爵というより、古くからの琉球貴族の尊称である「松山王子」(英国のPrince of Walesに相当)や「松山御殿(うどぅん)」の名前がふさわしい。

実業家として文化人として沖縄ではたいへん有名で、この作品はジャンル分けをすればエッセイということになるのだろうが、文章全体に流れる風格といい沖縄文化に対する愛着といい、「船場文化の真髄」とは比較にならない格の高さを感じる。

「古酒は単に沖縄の銘産で片付けては勿体ない。何処から見ても沖縄の宝物の一つだ。」という最初の一文からして、読む者をはるか南の異界に引きずりこむ。以下、泡盛古酒がいかに歴史と格式を持つ酒であるかをわかりやすく述べるのである。

泡盛について詳しくない方のために補足すると、泡盛の古酒というのはただ年数を保存すれば古酒になるというものではない。まず親酒といわれるすぐれた酒があって、それが自然に蒸発したり消費したりして減少した分を、あらかじめ用意してある二番酒で補充し、二番酒が減った分を三番酒で補充して、というたいへんな手間をかけて作られるのである。

この手順を「仕次ぎ」といって、これを百年以上にもわたって綿々と続けて来たのが古酒であった。沖縄に行った際、あるメーカーがやっている泡盛博物館で戦後まもなく製造された泡盛、「夕びぬ三合瓶」と歌にある三合瓶が、栓をしてあるのに例外なく3分の2くらいまで目減りしているのを見て、なるほど飲まなくても減るものだなあと思ったものである。

(ちなみに、泡盛で三合瓶がデフォルトなのは、戦後の物資難の際に米軍払い下げのビール瓶を再利用したからであるといわれる。その後自前でガラス瓶を製造できるようになったが、それ以来一升瓶の次は三合瓶という銘柄がほとんどである。)

せっかく親酒がいい酒であっても、二番酒の風味が落ちたり年数の違う若い酒だったりすると、仕次ぎをしたとたんすべてが台無しになったそうである。そして、由緒正しい古酒を持つことは家の名誉にかかわるので、一家の主人は金庫の鍵は召使に持たせても、古酒蔵の鍵だけは自ら保管したとこの作品には書いてある。

泡盛古酒としていま売られているものは、ウィスキーと同じようにメーカーでブレンドされているもので、尚順男爵が言うような「ときどきは出して自らも飲み、人にも供し、その都度二番三番より順次に繰上げ」というやり方はよほどの愛好家が個人でやっているだけである。

例えば私がやろうと思っても、百年二百年たたないと本当の古酒の味わいは期待できないし、ということは生きている間はとても無理ということである。そうやって先祖代々愛蔵した古酒が、沖縄戦で無残にも破壊されてしまったことは、返す返すも残念なことであった。

(そういえば、初期の美味しんぼに、山岡が沖縄に行って古酒をご馳走になる場面がある。しかし、そもそも戦前からの古酒自体ほとんど残っていないし、戸外の甕から飲んでいたような絵だったから、薩摩あたりの焼酎と混同していたのではないかと思っている。)

このエッセイの原文は「松山王子尚順遺稿」に収められており、amazonの古書で17,500円~の値がついている。国会図書館に行って読んでみたが、古酒だけでなく沖縄料理全般、沖縄陶器、首里城明渡し前後の印象などが書かれており、たいへん面白い本である。

ちなみに、本当の上質な古酒になると、白梅香かざ、トーフナビーかざ、ウーヒージャーかざといった独特の匂いがしたものという。とはいえ、素人が飲むと「何だか脂臭い感じがした」となってしまうらしいので、造る方も飲む方も経験が必要だったようである。

p.s. 1970~80年代少女コミックス等、書評いろいろあります。バックナンバーはこちら

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国会図書館で読んできたので、表紙はWEBから拾ってきました。